歴史
興善寺は、852年(仁寿2年)、第五十五代文徳天皇の勅願により、慈覚大師円仁が創建したと伝えられています。寺伝によれば、かつてこの地には千年以上の時を経た大楠木があり、その空洞には行者が浄行を行っていました。この行者は「楠入道」と呼ばれ、人々の病を祈祷で癒していました。この評判が遠く天皇の耳にも届き、勅命を受けた楠入道は宮中で祈祷を行い、天皇の病を癒しました。
楠入道は天皇からの恩賞を辞退し、「私の住む地にお堂を建て、大日如来をお祀りすることが長年の願いでした」と語り、忽然と姿を消しました。その後、天皇は慈覚大師に寺院の創建を命じ、寺の地形が唐の大興善寺に似ていることから、「鳳樹山興善寺」の号が授けられました。
創建当時は広大な寺領に七堂伽藍を備えていましたが、1570年頃の兵火により焼失。本尊は僧侶たちの手で蓮池に投げ込まれ、難を逃れました。その後、1655年に専海大僧都が粉河寺から興善寺に移り、1690年頃に再建され、現在に至ります。
境内の見どころ
本堂
本堂は元禄年間(1690年頃)に再建され、江戸時代の荘厳な雰囲気を感じることができます。本堂内には、本尊である大日如来(胎蔵界)を中心に、脇佛として薬師如来と釈迦如来が奉安されています。これら三如来像は平安末期に制作されたもので、現在は国の重要文化財に指定されています。
不動堂
不動堂では、不動明王、千手観音、元三大師などが祀られています。不動明王は凛々しい姿で人々の苦しみを癒し、清浄な空間の中で住職が祈祷を行います。祈願内容を護摩木に書いて奉納することも可能です(1本300円~)。
聖徳太子堂
聖徳太子堂では、檀信徒の先祖供養が行われ、写経などの活動も行われています。静かな環境の中で、心を落ち着けて祈りを捧げることができます。
鬼子母神堂
鬼子母神堂は蓮池の中に位置しており、子授け、安産、育児の神様として有名です。かつて人の子供をさらう鬼夜叉だった鬼子母神が、お釈迦様の教えにより改心し、慈愛の母となったという伝説が伝えられています。
山門
興善寺の山門には、東西南北を守護する四天王が祀られています。それぞれの天王が須弥山の四洲を守護し、仏法を守る存在として崇められています。
鐘楼
鐘楼もまた、興善寺の歴史を物語る重要な建造物です。その鐘の音は、訪れる人々の心に響き渡ります。
交通アクセス
興善寺へは、南海電気鉄道「多奈川駅」からバスに乗り換え、「極楽橋」停留所で下車し、徒歩約15分です。歴史と文化を体感できるこの寺院を訪れて、深い安らぎと癒しを得てはいかがでしょうか。