三草山は、大阪府豊能郡能勢町と兵庫県川辺郡猪名川町の府県境に位置する、標高564メートルの山です。山頂は能勢町上杉と長谷の両地区にあり、広葉樹の雑木林が広がり、ナラガシワなどの豊かな自然と多様な生物が共存しています。また、山の自然環境保護のため、大阪府自然環境保全条例に基づき、府緑地環境保全地域に指定されているため、動植物の採集は禁止されています。
三草山の北側には、日本棚田百選に選ばれた「長谷の棚田」が広がり、東光寺などの歴史的社寺や岩坪古墳など、古くからの文化遺産も周辺に点在しています。自然と歴史が融合した風景は、訪れる人々に魅力を与えています。
山頂からは、北摂の山々と大阪平野を一望でき、特に春には桜が咲き誇り、美しい景観が広がります。山頂への道中は、クヌギやコナラなどの広葉樹に囲まれた急な坂を登るため、登山者には自然の豊かさと挑戦的な風景が楽しめます。
『摂津国風土記』には、神功皇后が三韓征伐の際、美奴売山の神が勝利を助けるために杉の木を用いた船を進言したという伝説が記されています。この美奴売山こそが現在の三草山であり、古くから神聖な山とされてきました。
三草山のふもとには、かつて推古天皇の時代に日羅僧侶が開いた清三寺が存在していました。戦国時代の戦乱の影響で廃寺となり、宝篋印塔は現在、麓の神山集落の慈眼寺に移されました。この塔は、当時の技法や保存状態からしても貴重な文化財として評価されています。
三草山の北側には「長谷の棚田」と呼ばれる美しい棚田があります。この棚田は、日本棚田百選に選ばれており、石積みやガマ式水路が特徴で、文禄年間以前からの伝統的な技術が生かされています。地元住民や訪問者が農作業や景観保全に参加し、昔ながらの風景が保たれています。
かつて三草山の雑木林は薪や炭の材料を取るための入会地として利用され、地域住民と深く関わっていました。この雑木林には、日本固有のゼフィルス(ミドリシジミ類)のうち、ヒロオビミドリシジミなど10種類の蝶が生息しており、学術的にも貴重な生態系が存在しています。
1992年、地元の雑木林の地権者が保全の意向を示したことから、約14.48ヘクタールのエリアを保護対象とする「ゼフィルスの森」として大阪府緑地環境保全地域に指定されました。この地域には、ナラガシワなどの樹木が多く、希少な蝶類の生息地として重要な保護区となっています。
三草山と周辺地域の保護活動が評価され、2016年には、全国の「都市部で生物多様性が保たれている自治体ランキング」で上位にランクインしました。これにより、地域住民と行政、研究者の協力による自然環境の保護の重要性が広く認識されています。
三草山は自然保護の取り組みにより、土地の開発から守られてきました。今後もこの豊かな自然を次世代に引き継ぎ、地域の歴史と生態系を守るための活動が期待されています。
三草山は、自然、歴史、文化が融合した場所であり、訪れる人々に学びと癒しを提供する特別な存在です。