大阪府高槻市に位置する生命誌研究館は、生命科学の研究と展示を通じて、生物の多様性や進化の歴史に触れることができる特別な博物館です。1993年に設立され、日本たばこ産業(JT)によって運営されるこの研究館は、一般の来館者だけでなく研究者にも開かれており、科学的な発見や知識の普及を目指しています。
展示は、来館者が「生命」とは何かを考え、自分自身を含めた生命体の進化の過程を理解するためにデザインされています。特に、DNAがすべての生物に共通する基本要素であり、進化の歴史を物語るものであることを展示を通じて学べる点が特徴です。また、受精卵から個体ができあがっていく発生過程や、生物の多様性と階層性に注目しており、進化と自然の関係性について理解が深まります。
生命誌研究館では、学芸員だけでなく、実際に研究を行っている専門の研究者が常駐し、それぞれの研究分野で活動しています。この点が他の博物館と異なる点であり、来館者が科学的な知見を深める場を提供しています。また、大阪大学と連携し、大学院生も在籍しているため、教育的な役割も担っています。
生命誌研究館では、独自の視点で生命の進化とその歴史を伝える展示が行われています。主な展示には「生命誌絵巻」、「新・生命誌絵巻」、「生命誌マンダラ」があり、いずれも生命の多様性、進化、階層性をテーマにしています。
場所: 1階エントランスホール
概要: 生命の起源から現在に至るまでの進化の歴史を描いた「生命誌絵巻」は、1993年の開館時から展示されている象徴的な作品です。この絵巻は、地球上に存在する多様な生命の歴史とその関係を視覚的に表現しています。
扇の天: 現在の多様な生物を表現し、右端には単細胞のバクテリア、左端には人類が描かれています。
扇の要: 38億年前に誕生した祖先細胞からさまざまな生物が進化した過程を示しています。
すべての生きもの: 38億年の歴史を持つことを扇の形で示し、生命の連続性を強調しています。
場所: 1階エントランスホール
概要: 開館10周年を記念して制作された「新・生命誌絵巻」は、生命の進化と地球の動きの関係を描き、生物が地球環境の変動にどのように適応してきたかを示しています。
地球と生きものの関わり: 歴史的な地球の動きと気候変動を通じた生命の進化を描いています。
生きものの変遷: 昆虫を代表とする地球の多様な生物群の変遷を視覚的に示しています。
氷河期と絶滅: 氷河期の影響や絶滅を経て進化した生物の歴史が描かれています。
場所: 1階エントランスホール
概要: 開館20周年を記念し、生命の階層性を表現した「生命誌マンダラ」は、受精卵から始まる生物の発生過程と階層構造を示し、全ての生物が同じゲノムを持ちながらも階層ごとに異なる役割を持つことを視覚的に表現しています。
中央の受精卵: 発生の源である受精卵が多様な細胞に分かれ、個体の形成過程を示します。
階層性: ゲノムが細胞、組織、器官、個体、種といった各階層で異なる役割を果たしている様子が描かれています。
進化の時間軸: マンダラの周縁には絶滅した生物が描かれ、38億年にわたる生命の進化が表現されています。
場所: 1階エントランスホール
概要: 平安時代の短編集『堤中納言物語』に登場する「蟲愛づる姫君」をテーマにした展示で、生物への「愛づる心」を重視し、現代の科学的視点と伝統的な博物画の要素を融合させた展示です。
蟲愛づる姫君の紹介: 平安時代の姫君が、自然への好奇心から生物を観察する姿が描かれています。
研究館の活動紹介: 蟲愛づる姫君の精神を引き継ぐ形で、研究館で行われている生物研究の活動を紹介しています。
場所: 1~4階中央階段
概要: 38億年にわたる生命の歴史を「階段」として表現した展示で、1段が約1億年を表し、地球誕生から現在までの生命の進化と多様性、共通性の歴史を辿ることができます。
階段の構造: 階段を登ることで、生命誕生から現在までの進化の歴史を感じられます。
多様性と共通性のコース: 登りと降りでそれぞれ多様性と共通性を体験でき、生命の多様さと連続性を学べます。
場所: 研究館の屋上
概要: 「Ω食草園」は屋上に位置し、自然の中でチョウの生態観察ができる展示スペースです。訪れるチョウが卵を産み、幼虫が成長する過程を身近に観察でき、季節の移り変わりや生物の生態を体感できます。
DNAについて学べる展示で、体内の細胞やDNAをテーマにした展示が行われています。顕微鏡で細胞を観察したり、DNA模型を使って構造や役割を学べる体験コーナーもあります。
脳の進化について知る展示で、脊椎動物や昆虫の脳標本を比べながら、生物が環境に合わせてどのように脳を進化させてきたかが紹介されています。
人気童話「エルマーのぼうけん」を元にした展示で、主人公エルマーが様々な動物に出会いながら進化を辿る冒険がテーマになっています。ジオラマや解説を通じて動物の進化の過程が学べます。
5億年前の生物が海から陸へと進出する様子を体験できる展示です。植物、昆虫、脊椎動物がどのような戦略で陸に上がったかを知ることができ、陸上での適応や進化の過程を追体験できます。
オサムシやメダカなど、特定の生きものがどのように進化し、日本列島に生息するようになったかをDNA研究を通じて紹介する展示です。地球規模の進化と生態系のつながりが学べます。
枝そっくりの姿をしたナナフシについての展示です。ナナフシが擬態と再生といった生存戦略を駆使してどのように生き延びているかが学べ、東南アジア産の巨大ナナフシの標本も展示されています。
多細胞生物の発生と進化をテーマにした展示です。卵の観察や発生過程に注目し、生きものがどのように成長し進化してきたかを模型や映像を使って解説しています。
生命誌研究館は、午前10時から午後4時30分まで開館しており、日曜と月曜、年末年始(12月29日から1月4日)は休館日となっています。また、準備等のために臨時休館する場合もあるため、訪問前に確認することをお勧めします。
生命誌研究館では、生命の成り立ちや進化を体験を通して学べる多彩な展示が行われており、幅広い年齢層に楽しみながら科学的な知識を深める機会を提供しています。科学の世界に触れ、生命や生態系の不思議を感じられる場所として、多くの人々に親しまれています。